0514 質問一考
高校生のとき、近所の学習塾に通っていた僕は山ほどいたチューターに一度も声をかけなかった。
見栄で茶髪にする人間に教えを請いたくなかったのもあるが、「一度聞いたこと」と「調べりゃわかること」を人に聞けないタチなので、なかなか勉強のことで質問に行けない。
大体の問題は授業なんかで「一度聞いたこと」を使って解けるようになっているし、初見の問題はなにせ初見であるためタネがわかれば簡単なものが多く、答えを「調べりゃわかること」が多い。
それらを聞けばニコニコして答えてくれようが内心嫌な顔をされるに決まっている(と信じて疑わなかった)。
他の生徒が質問に行くのを見たことはあるが、僕の質問基準を満たしているとすれば僕には想像できないレベルの勉強をしていることになるし、満たしていないとすればチューターに気軽に質問しろという制度自体に間違いがあると思っていた。
どちらに転んでも僕が下らない質問を持って行く理由にはならない。
浪人を終えて大学に入るまで、終ぞその基準が揺らぐことはなかった。
そして今日、僕は初バイトとしてはかなり充実した8時間のチューター業務をさせて頂いた。
質問を持ってくるのはテスト対策授業で塾に殺到する高校1.2年の子供たち。
当然と言えば当然だが、僕ならとても持ってこなかった質問を奴らは持ってくる。
「これなんて読むんですか。」その胸ポケのスマホは何のためにネットに繋がっている。
「これ解いてください。」投げんな。
「いや、そこまでは書いたんですけど。」そっちを持ってこい。
「国語どうすればいいですか。」広い。
ただ、奴らは可愛い。
断じて質問に来るのが妹のような世代の女の子が多かったからではない。仏頂面の野郎すらも可愛い。先生と呼んでくる割には話しているうちにタメ口を叩く生徒が多かったが可愛い。明後日からのテストで1点でも多くとって1人分でも上に立ってほしい。
教えを請うてくる生徒は可愛いのだ。
AからBへものを教えることは知的財産の分譲であり、Aは赤字だと考えていた僕が馬鹿だった。むしろ癒し効果があると言っていい。そうして師弟関係というのは古来から脈々と繋がってきたのではないだろうかとすら思う。
1年1学期中間などは今後の勉強モチベーションを左右する高校で最も大事なテストだ。僕が一度したような挫折は味わってほしくない。
さて、僕は教授に積極的に教えを請うことができるだろうか。そう考えると、以前はいろいろ理屈をつけて恥ずかしがっていただけのようにも思えてくる。